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THE BOOK OF BURNING / VIRGIN STEELE
2002年1月発売の企画盤。
未CD化だった1st/2nd/2nd後のEPから8曲リメイク、3rd時のボツ曲の新録音1曲、
3rdと同時期の女ボーカル・スラッシュプロジェクトORIGINAL SINに提供した曲の新録音2曲、
そして1st2ndの頃のバンドの顔だったギタリストのジャック・スターと97年頃に作ったデモの曲の新録音4曲。
(さらにそのデモの序曲的な小曲が1曲。これはジャックのクレジットがなく、97年当時に作ったのかは不明)
後追いのファンとしては、当時まだ未CD化だった初期2枚の曲が聴けるのがありがたかった。
初期のリメイクの出来としては、デヴィッドの歌が格段に上手くなっているのが大きい。
それだけでなく、本作では楽曲の方向性もあってかなりストレートにロックボーカルを歌っている。
近作での、感情表現を優先して裏声を使ったり唸り声をあげたりの歌唱が苦手な人には是非一度聴いてほしいアルバムだ。
一方、演奏に関しては、カチッとまとまっている分、オリジナルにあった破天荒な勢いが失われている部分もある。
選曲の基準に関しては、本人曰く「自分が関わったモノの中から選んだ」。
他にデヴィッドのクレジットのある初期の曲では、"Danger Zone""Still in Love with You"なども聴きたかったが…。
なお、これら本作でリメイクされた曲はライブでも今なお演奏されることがあるが、デヴィッドは言う。
「"On the Wings of the Night"(4th収録のメジャー感漂う明るいメタル)のようなことをいつかまたやるかも知れないが、
初期2作の頃に戻ることはない。当時のVSと今のVSは別の生き物だから。」
16.A Cry in the Nightはジャックの泣けるギターソロが無くなったのは痛いが、このアコースティック・バージョンも悪くない。
3rdのボツ曲で新録音の12.Hot and Wild は陽気なロックンロール。
1.Conjuration of the Watcher と8.Succubus はかつてスラッシュ・プロジェクトで使った曲で、前者は99年の「アトレウス1」の頃に録音されたようだ。
どちらもかっこいいスピード曲だが、特に前者はアルバム1曲目にふさわしい出来。
同時期に出たベスト盤の方に収録することも検討されたが、オーケストレーションのないストレートな楽曲なので取りやめたとのこと。
そして、ジャックと97年に作った4曲入りデモ「Sacred」の曲だが、これはどれも本作でリメイクされた初期の曲、
つまりデヴィッド一人、あるいはジャックとの共作の初期の楽曲と似た音楽性である。
骨太のリフ主体のハードロックで、アラビックなムードも漂う。
7.The Chosen Ones にはデヴィッドの姉(プロの演劇歌手)も参加。
他、当時ベーシストとしてバンドに加わったばかりのジョシュア・ブロック(本職は7弦ギタリスト)や
長年エンジニアを務めているスティーヴ・ヤングがギターを担当している曲も多く、当時はエドワード・パーシノの立場を心配したりもした。
ドラムでは、ツアーのヘルプをしたりと準レギュラー扱いのフランク・ズモも参加している他、3曲で打ち込みが使われており、後者は残念。
音楽的には、確かにデヴィッドの言うとおり、今のVSとは「別の生き物」だと思う。
楽曲のスタイルは今のバンドの音の方が好きだ。
だが、デヴィッドのストレートな歌唱が聴ける点に本作の旨味がある。
1.Conjuration of the Watcherは特にオススメだ。
(「THE BOOK OF BURNING」発売に至る経緯)
スラッシュまたはヘアメタルというシーンの二極化の中で活動の場を失い、ジャック率いるBURNING STARRは90年代に入ると同時に消滅。ジャックはデヴィッド・ディフェイとブルーズバンドを結成。かつて二人はバンド名の権利を巡って争ったが、向こうは裁判大国だからということなのか、そのことで友情は終わらず、デヴィッドがBURNING STARRのアルバムのプロデュースをやるなど交流は絶えていなかった。しかし上記のブルーズバンドは軌道に乗らず、もともとVSを諦めるつもりのなかったデヴィッドはVSに戻り、ジャックはインストのソロ・アルバムやブルーズ・アルバムを作るも表舞台からは消えていった。その後、VSが「The Marriage of Heaven and Hell」の2作で復活したことに刺激を受けたジャックは97年にデヴィッドを訪ね、4曲のデモ「Sacred」を作成、そしてレコード契約を取るようデヴィッドに託すがこれは芽を結ばず。しかしVS復活効果なのか、ギリシャや南米のレーベルが触手を伸ばし、ジャックはB.STARRの再発にこぎつける。その後、2001年にデヴィッドがジャック在籍時の初期2枚のCD化を手掛け始めると、ジャックはそれに反発。そして自身のニューバンドGUARDIAN'S OF THE FLAMEを始動させ、久しぶりにシーンに復帰すると、メディア上でデヴィッドを口撃し始めるのであった。
レコード会社をデヴィッドが見つけて来るという条件で、97年に制作された4曲の権利はジャックとデヴィッドで折半されることになった。しかしデヴィッドはレーベルを探さなかった…これがジャックの言い分である。それに対してデヴィッドは、NUCLEAR BLAST、MASSACRE、そしてVSの契約するSANCTUARY/NOIZE/T&Tと話をしたがダメだった、と言っている("Rain of Fire"が97年にギリシャのメタル雑誌の付録CDに収録されたので、何らかのプロモートをしていたのは事実だろう)。レーベル側としても、バンドでもないプロジェクトものには興味なしといったところか。一方ジャックはこのデモのことを「REUNION」と呼んでいるので、思惑の違いがあったのかも知れない。だがデヴィッドにはエドワードという従順かつ優秀な片腕がいる上、欧州の新たなファンは初期VSの復活を望んではいなかった。正直、VSには3年しか在籍していなかったジャックがなぜそこまで拘るのか、なぜB.STARRではないのかが分らないが、個人的な見方では、欧州でVSがビッグになったことに対する羨望の気持ちが強かったのだと思う。さて、では楽曲についてはどうか。ジャックは権利が半分盗まれたかのようなことを言っている。それに対してデヴィッドは正面からは反論せず、アルバムに収録するにあたって改めて曲を作りなおした、とボカしている。だがジャックのHPで"The Chosen Ones"が公開されているが、それを聴くとアレンジにさして違いもない。ただ楽曲の方向性を考えると、ジャック一人で作ったものとも言えない気がする。ジャックが「デヴィッドは作曲や作詞には全く関わっていない」「デヴィッドのところに言った時には曲は完成していた」とまでは言わないのが気にかかる。また、デヴィッドが作曲に全く関わっておらず、権利を半分持っているだけなら、そんな愛着の湧かなそうな曲をアルバムに収録するだろうか。ジャックにも金が行ってしまうのに。
2001年、デヴィッドは自費を投じて初期2枚のリマスターを始めるが、デモの件で不信感を募らせていたジャックはそれに待ったを掛ける。この再発でのデヴィッドの取り分が幾らかを明らかにしなければ、再発には応じないというのだ。これにはデヴィッドだけでなくSANCTUARY側も反発し、「ではウチはリメイク・アルバムを作らせますから」と宣戦布告。これが「THE BOOK OF BURNING」である。これに対してジャックは他の初期メンバーを誘って「このリメイクアルバムではオリジナルのプレイは聴けない。ファンを騙すな」と署名して抗議。同時に独自に、自分の所持しているマスターを使っての初期2作の再発を画策。しかしそもそも法律的に綱渡りな上に、ジャック所持のマスターは何曲か破損、さらにレーベルは米国のインディーということで、ほとんど海賊盤的な出来になりかねなかったらしく、これはデヴィッドが弁護士を通じてストップ。その後、どういった和解策が計られたのかハッキリしないが、2002年の後半に初期2枚のCD化がついになされた。しかしちょうどその頃ジャックがシーンに復帰し、メディア上でのデヴィッド口撃が始まる。それに対してはデヴィッドは「泥試合をする気はない。彼はもうVSに20年もいないのだし、自分のことをやるべきだ」といった対応。バンドが軌道に乗っている彼からしたら、わざわざ反応するメリットは確かにない。だがジャックの口撃はほとんど悪口といったレベルまでエスカレート。「最近のVSはMANOWARのパクリ」みたいなことも言っていて、90年代にはデヴィッド自身がMANOWARへのシンパシーを表明して「恩恵にあやかろう」としているようにも見えていたのが、その後MANOWARとの比較を嫌がるようになったのは、このことがキッカケのようにも思えるのである。なお、俺は今のVSが好きなのでデヴィッド贔屓だが、ジャックにも他意はない。彼はどん底をくぐりぬけてカムバックした男であり、喧嘩上等のギターヒーローであり、憎めない男なのだ。YOUTUBEには彼本人かフィアンセのシャロンがアップしたと思われる動画が多数あり、強烈なギタープレイを披露しているので要チェックだ。