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THE MARRIAGE OF HEAVEN AND HELL-PART ONE / VIRGIN STEELE
アルバム二枚にわたる壮大なコンセプトの幕を開ける第一章として発表された彼らにとって六枚目の作品。
そのコンセプトとはディビッド・ディフェイによれば 「宗教や人種の問題、戦争について扱っている」 ということらしいですが、確かにアルバム全体の雰囲気はコンセプト作らしい統一感を感じさせる内容ですが普通に曲単位で聴いても楽しめます。
とても大仰でシンフォニックなサウンドで完成度も非常に高く、1stから順に (後追いですが) 聴いてきた身としてはついに彼らもここまでやるようになったか・・・と感慨もひとしおです。
通算6枚目。95年1月発表。
VIRGIN STEELEはマネージメントの強烈なプレッシャーゆえに音楽性の揺れた4th(現在では高評価)を発表すると、しばし活動休止を余儀なくされた。
そして前作から5年ぶりに満を持して発表した復活作の5thはさらに方向性を変えた問題作であった。
だが、その問題作からわずか1年10ヶ月後にリリースされた本作6thはバンドの過去の美点を凝縮した傑作であり、その意味では本作の方が「復活作」という名にピッタリである。
前作は、スタイルがそれまでのものとは違うものの良い曲はいくつもあった。
しかし本作、そして次作の充実度を思うと、バンド結成から14年を経て「才能の爆発」が突如として起こったと言えるのではないか?
入門者にオススメしたい一枚である。
本作は「マリッジ3部作」の第一弾の、コンセプトアルバムである。
テーマは人種問題、宗教問題、戦争。
しかしSE、台詞、つなぎの小曲、ロングサイズの曲などはなく、14のノーマルかつコンパクトなメタル曲によって構成される。
彼らの音楽は「barbaricかつromantic」と形容されるが、勇壮でワイルドなメタル曲が、キーボードやオーケストレーション、アコースティック・ギターなどで目一杯ロマンティックに彩られているのが特徴であり、特にこの独特なロマンティックなムードが発散されているのが本作の特徴だと思う。
個人的には彼らの最高傑作だと思う次作は、本作に比べれば「ヘヴィ」で「メタリック」であり、こちらは「軽やか」で「艶やか」だ。
また、各楽曲の構成としては、緻密に練られた次作に対し、本作は曲中でテンポチェンジすることでドラマ性を演出する曲が多い。
不満点としては、ギターやドラムの音のしょぼさ。前作ではそんなことなかったのに…。
それと曲順。もしかしたら歌詞の内容を重視しての並びなのかも知れないが、ミドル・テンポの曲が中盤に集中していたり、バラード2曲の位置が近すぎたりするのが不満。
最近は曲順を変えたりランダム再生で聴いたりして楽しんでいる。
1. I Will Come for You ジリジリと迫りくるリフで始まる曲。中盤ではこのコンセプト3部作の鍵となるメロディと歌詞が登場する。だが、帰還を告げる主人公は誰の元に帰ってきたのか。
愛する人か、憎き怨敵か。そして何処から帰って来たのか…。終盤の盛り上がりも素晴らしい。
2. Weeping of the Spirits 冒頭のアコースティック・パートの妖艶な雰囲気、これぞVSの真骨頂。「俺を殺すか、お前がその場で死ぬかだ!」と叫ぶサビが圧倒的にカッコいい。
3. Blood and Gasoline ここまでアップテンポの曲3連発。アルバム冒頭のインパクトの素晴らしさは次作と双璧をなす。中でもこの曲は特に人気の高い疾走曲で、VS独特の「軽やかでロマンティック」なムードが味わえる。ブッリッジパードの歌は最高に盛り上がる。
4. Self Crucifixion 頭3曲は確かに良いが、クオリティではこの曲もまったく引けを取っていない。軽やかでありながらムーディ(どこか憂鬱)な名曲。
5. Last Supper ヘヴィでドゥーミーなリフ・ソング。中間部で疾走、デヴィッドのシャウトも冴える。
6. Warrior's Lament ピアノとオーケストレーションによる派手なインスト。
これを聴けばデヴィッドが「キーボードも弾くボーカル」ではなく、技量とセンスに満ちたキーボディストであることが分かるだろう。
また、デヴィッドの父は演劇のプロデューサーであり、本作はまさに演劇の舞台転換の際に使われそうな雰囲気だ。個人的にはこれが1曲目に欲しかった。
7. Trail of Tears これまたスローに始まり、途中で加速する曲。この曲の加速パートに移行する部分にVS独特の「ロマンティック」な雰囲気な如実に表れている。
8. The Raven Song 本作中、とくにアグレッシヴな疾走曲。やや一本調子でギターリフのキレも悪い。
9. Forever Will I Roam 彼らの武器である、和やかで優しいバラード。
10. I Wake Up Screaming 後半のハイライトの一つ。フックのあるリフに導かれながらウネウネと疾走する曲。
11. House of Dust バラード第2弾。かなり似たタイプなので、ここまで近い位置の曲順に疑問。出来はどちらも良いが。
12. Blood of the Saints アグレッシヴかつややダークな雰囲気のアップテンポ曲。
13. Life Among the Ruins アルバム最終章を飾る疾走曲。勢いのあるリフ、そしてヴァース、ブリッッジ、コーラスで変転しながら歌詞を叩き付けるヴォーカル・メロディがやたらと曲を盛り上げる。
「お前は薔薇、お前は刃」から始まるパートは絶品。曲の終盤はアルバムのラスト用にアレンジされたかのような、独特のクライマックス・パートがある。
14. The Marriage of Heaven and Hell アルバムのテーマ・メロディを鳴らすもの哀しいインスト。個人的には次作のバージョンの方が好きだ。
歌詞について。
まず、本作は決して「ファンタジックなストーリー・アルバム」ではない。
確かに曲名に「ガソリン」などという単語が出て来るのには俺自身も初め違和感を覚えたが、そもそもそうした類いのコンセプト作ではないのだ。
また、映画「ハイランダー」のように現代に基軸をおいたファンタジーも有りうるわけであるし。
デヴィッド自体は「マリッジ3部作」のあとは古代ギリシアや創世記についての歌詞を書いていくわけだが、
彼自身は口酸っぱく「俺は過去の歴史やファンタジーについて書いているのではない。現在について書いている」と言う。
歴史の教訓について学べと言いたいのでもなく、彼のスタンスは「過去においても、人間はおおよそ違わない」ということであり、
歴史や神話という題材を手段として、彼なりの人間観や世界観というものを表明しているのだろう。
歌詞についての所感は次作、次々作のレビューでも多く述べたが、付け足すことがある。
その後、アメリカのメタル記者というCraig Wisnomという人の記事をざっとだが読んだのだ。そこではメタルの歌詞と古典文学・詩の関係を考察していたが、VSについての言及が多くあった。
まず、Atomic Roosterやブルース・ディッキンソンが題材にしたことでもおなじみの18世紀・英国の詩人であるウィリアム・ブレイクの作品にずばり「The Marriage of Heaven and Hell」というタイトルのものがあった!
ただデヴィッド自身はブレイクのファンではあるものの、作品完成後に指摘されるまでそのことには気付かなかったという。
だが、一部の歌詞に引用がある(生きとし生けるものは全てが神聖である、など)のは事実なようで、より詳細に比較する必要があろう。
文学関係だと、他にもシェイクスピア、指輪物語からの引用や類似を考察してある。
また、自分が少し取り上げた「The Raven Song」はエドガー・アラン・ポーの詩「The Raven」をモチーフにした、あるいはそこから着想を得た歌詞のようである!なんてこった!
原文を読んでみましたよ。フレーズとして被っているのはわずかですが、完全にこの詩が下敷きになっていますね。
他にも聖書世界、北欧神話、ギリシア神話の曲を無分別に並べる意図への推察など、意義深い小論でした。
各楽曲の歌詞の細かい感想は、いつか「この曲を聴け!」の方で書いてみたいと思います。